この記事は、トナリノ広報部が主宰した勉強会「コンテンツ設計に必要な『ヒアリング項目』を考える」の様子をもとに作成したものです。
今回の勉強会では、ライター・編集者の方々が企業から執筆の仕事を受けるときに、どのようなヒアリングを行っているのか。また企業の方々は、ライター・編集者にどのように依頼をすればいいのか、双方の立場から日頃の業務の悩みや困りごとを共有し、ヒアリング項目と事前コミュニケーションのあり方を考えていきました。
記事制作で失敗する原因の大半は「事前コミュニケーション不足」
ライター・編集者が企業から依頼を受けて記事制作に携わる際、「執筆に入る前にすり合わせをしておけば」「もっと早くこの問題がわかっていたら」と、後から後悔することがよくあるのではないでしょうか。
逆に発注者である企業の中の方も、自分たちが想定していたものと全然違う原稿が上がってきてしまい、困ることがあるかと思います。
双方からさまざまな失敗ケースを聞いてみると、その原因の大半は「お互いの事前コミュニケーション不足」に集約されることがほとんどだと感じます。
企業の方とライター・編集者が仕事をする場合、大前提として以下2つのことを念頭に置いておく必要があります。
①そもそも、ライター・編集者が何をしてくれる人なのか、大半の人は知らない
これは主にライター・編集者側が意識しておきたいことです。普段、代理店や制作会社、出版社、編集プロダクションといった広い意味での「同業者」と仕事をしていると、忘れがちかもしれません。業界関係者であればある程度の慣習や常識が通用しやすいですが、一歩その外に出てみると、大半の人はライターや編集者がどんな職業なのか、具体的にどんな役割を果たしているのか、そもそも知らないのです。
特に企業がはじめてライターに発注するときなど、何をどう依頼していいかわからず、情報が不十分になりがち。そのためライター・編集者側から「記事制作のためにはこういう情報が必要」「自分たちの役割はここからここまで」などときちんと説明し、お互いの認識をすり合わせておく必要があります。
②聞かなければ(言わなければ)何一つ伝わらない
お互いの認識がすれ違ったままでは良い原稿は生まれません。事前のやりとりを通して疑問点、不安なことなどが少しでも生じたならば、仕事がはじまる前に相手にそれを伝えたり、確認したりすることです。相手に聞かなければ(もしくは言わなければ)、何一つ伝わりません。
「(発注者に対して)こんなことを聞いたら次の仕事がこないのでは」「(ライター・編集者に対して)こんな要望を出すのは失礼にあたるのでは」と、コミュニケーションをとることを躊躇してしまう……という悩みを、発注者側からも、ライター・編集者側からもよく聞きます。
しかし疑問点や不明点は、お互い小さいうちにつぶしておくのが吉。スタート時の認識がズレていると、むしろお互いが不利益をこうむります。些細なすれ違いがこじれにこじれて、修復不可能なトラブルを引き起こすことも……。
①でも書いたように、そもそもお互いに基礎情報や共通認識がないところからはじまることが多いのですから、仕事をきちんと進めるために確認や質問は必須なのです。その段階で怒られたり、回答をにごされたりするならば、そもそもその仕事自体を降りた方がいいかもしれません。
企業から取材・執筆を依頼された時に最低限、確認すること
前置きが長くなりましたが、実際に取材・執筆を依頼されたとき、最低限確認することをピックアップしてみましょう。
①制作目的:何のために書くか/どんな成果を得るために書くか
②内容:どんなテーマで何を書くか
③記事の体裁:イメージしている記事の仕上がりはどんなものか
④想定読者:どんな人に読んで欲しいのか
⑤読後感:その記事を読んだ人をどんな気持ちにさせたいのか<その他>
・期待値のすり合わせ(業務範囲、クオリティのレベル感など)
・費用面やスケジュールなど事務的な確認
ここで重要なのが「期待値のすり合わせ」。特に発注者がイメージしている業務範囲と、ライター・編集者側が認識している業務範囲とが違っていると大変です。取材と執筆のみを担当する場合と、記事企画の提案や編集までを担当する場合とでは、ヒアリングする内容はもちろん、費用面やスケジュール感も変わってきますよね。
勉強会に参加いただいたライター・編集者のみなさんにも、普段どのようなヒアリングを行っているのかを聞いてみました。
クライアント側で、記事の内容、イメージは決まっているけれど、制作の目的が明確でない場合があるので、目的を一緒に考えていくことも多い。担当者の方と作りながらチューニングしていくと工数はかかるけれど、クライアントと同じ方向を見て進められるのでコミュニケーションがスムーズになる
ターゲット設定は細かくヒアリングすることが多い。記事単体の読者はもちろん、掲載される媒体のターゲットは何歳くらいか、どういうことに関心がある人たちなのかまでを聞けると原稿の仕上がりがイメージしやすい
企業によって伝えたい内容や与えたい印象はさまざまなので、その記事の中で「一番伝えたいこと」は何なのかをヒアリングする。また、逆に「こう受け取ってほしくない」ことは何かを聞いてみることもある。「こうしたい」は抽象的になりがちだが、「こうしたくない」というイメージは割と具体的にあるケースが多い
記事の目的がぼんやりとしているときは、発信をしている中でよく誤解されていることはないか、意図とは違う見られ方をして困ったことはないかを聞いている。その「誤解される印象を払拭する」というのが、一つの目的になるケースもある
発注側の企業は、ライター・編集者にどのように依頼をしているのか?
この勉強会では、取材・執筆を依頼する企業側の方にもご参加いただき、ライター・編集者に普段どのように依頼をされているのかを聞いてみました。
記事の中で伝えたいポイント、キーワードを共有するようにしている。言葉の共通認識があると齟齬も生まれにくくなる
基本のヒアリング内容(前述の①〜⑤)を事前にまとめておいて、依頼時にそれを元に30分程度オリエンの時間を設けるようにしている。ただ記事の体裁(ヒアリング項目③)については、判断が難しいことがあるので、オリエンを受けたライター・編集者さんにアドバイスしてもらえるとうれしい
事前にどういった信念を持ち、何を大事にしている企業なのか、どんな歴史があるのかをしっかり伝え、自分たちについて理解してもらう時間を作っている。発注側としては手間ではあるけれど、そうすることで事前に認識を合わせることができ、結果的に記事のクオリティも高くなる
今回参加いただいた企業の方は、日常的にライター・編集者とやりとりをしている方がほとんどだったこともあり、かなり丁寧に事前のコミュニケーションをとっていました。やはり手間や労力が多少かかっても、事前コミュニケーションを密に行うことが、記事のクオリティ向上につながるようです。
すべての発注者が手厚いオリエンテーションを行ってくれるとは限りませんので、ライター・編集者側から、「事業を理解するために、会社案内や事業に関する資料をいただけませんか?」とお願いするのもよさそうです。
その他、ヒアリングの「切り口」にはどんなものがある?
発注側にまだ明確なイメージがなく、基本のヒアリング項目が埋まらないときなど、別の切り口からヒアリングを行い、記事制作のイメージを固めていくこともあります。
発注元の企業が過去に公開している他の記事を、あらかじめ調べておく。「過去にこう答えていたインタビューがありましたが、当時から変わったことはありますか?」「こういう記事がありましたが、背景をもう少し教えてください」など、過去の情報から具体的なエピソードを拾いながら、イメージをすり合わせていくこともある
インタビュー対象者が著名人ではなく、過去記事などがない場合。例えば社員インタビューをするときは、対象の社員の大まかなプロフィール(入社年、現在の仕事内容、簡単な経歴など)を必ずもらう。少しでも事前情報を集めるために、別途、簡単なアンケートを作って事前に回答してもらっている
記事制作にあたって、最小限のコミュニケーションで記事を完成させられた方が双方楽なのは間違いない。ただすべての仕事がそうきれいには進まないので、まずはざっくりした原稿をつくり、それを叩き台として認識のすり合わせを行い、ブラッシュアップさせていった方が早い場合もある
今回の勉強会では、受注側、発注側双方の立場の方にご参加いただくことができて、ただの「ヒアリング項目」のピックアップにとどまらず、どのような事前コミュニケーションを行えば双方がスムーズに制作を進められるのか、より高いクオリティの記事を作るにはどのようなコミュニケーションが必要なのかを考えることができました。
みなさんのお話をうかがっていて改めて感じたことは、やはりコミュニケーションに「近道」はないのだということ。
冒頭に挙げた「①そもそも、ライター・編集者が何をしてくれる人なのか、大半の人は知らない」「②聞かなければ(言わなければ)何一つ伝わらない」という2つの大前提を念頭において、お互いに歩み寄り対話を重ねながら、良い情報発信をしていきたいものです。