私たちの課題

広報活動において「企業の中の個人」を守ることを、いま真剣に考えてみたい

ここ最近、企業広報に携わる人間として、よく考えているテーマがあります。それは、「企業の中の個人」の守り方。

……と、偉そうに書きはじめたものの、正直なところ、私もはっきりとした結論にたどり着いているわけではありません。今日は最近考えていることを、ただつらつらと綴っているだけですが、どうぞご容赦ください。みなさんのご意見も、ぜひうかがってみたいと思っています。

実名顔出しの社員インタビューに対する懸念

これまでは、例えば採用広報のお手伝いをするとき、「採用候補者の視点で考えると、社員さんたちのリアルなインタビューがあるといいですよね」と提案してきたし、「その場合、ご本人の顔と名前も出していただけるとなおよいですよね」と、当たり前のようにアドバイスしていました。

もちろん、その方が効果が大きいと思っていたからこその提案であり、実際に以下のようなメリットがあることは事実だと思っています。

  • 採用候補者が、一緒に働く人や社内の雰囲気を具体的にイメージできる
  • 企業活動が実態を伴っていることをリアルに伝えられる
  • 実名顔出しにすることで、社内広報としても効果を発揮する(接点のない他部署など)
  • 顔を知っているクライアントに対しても、効果を発揮する場合がある

しかし個人的にはここ数年、インターネットを通じた発信を通じて得られるさまざまなメリットよりも、リスクの方が高まっているように思います。

  • 個人情報が特定され、何かしらの実害が及ぶ可能性がある
  • 過去の発言が残され、固定的なイメージがついてしまうことがある
  • 一度インターネットに掲載されると、完全に削除することが難しい
  • 無意識にルッキズムを助長させてしまう(容姿端麗な人が取り上げられがち) など

そのため最近わたしは、違う形で社内の雰囲気や、働くイメージを想起させられる方法はないか、いろいろと模索しながらコンテンツの提案を行っています。

成果が出すぎたために、肥大してしまったリスク

先日、ある会社のYouTube動画でこんな「お知らせ」が投稿されました。

片付けトントン」という清掃サービスを運営している、愛知県の株式会社中西さん。あらゆるゴミがうず高く積まれた部屋を、スタッフの方がてきぱきと片付けていく動画が人気を博し、YouTubeのチャンネル登録者数は27万人。動画を活用した広報活動に、大成功していた会社です。

動画には、実際のスタッフの方が多数登場しており、最近では一人ひとりにファンがつくほどだったようです。

わたし自身も楽しく動画を拝見していたのですが、先日投稿された上記の動画内で、YouTubeに出演しているスタッフさんの実生活になにかしらの支障が出ており、会社がそれをケアすることが難しくなっていること、それに伴い、過去動画は削除して今後は個人をフィーチャーしない動画を制作していくことが発表されました。

実際にどんなことが起きてしまったのか、詳細はわかりません。ただ、動画による広報活動が成功し、知名度が上がって人気が出ると同時に、そのリスク面も肥大してしまったのだろうと推察することはできます。

  • ご本人もしくはご家族に対して、心ないメッセージや誹謗中傷などが届いてしまう
  • お名前以外の個人情報が特定され、悪用される

他にも、例えば「転職しにくくなる」「固定のイメージがつきすぎて他の仕事をしにくくなる」とか、細かいことを挙げればキリがないかもしれません。

しかしこのチャンネルは、おそらくスタッフの方一人ひとりを主人公にしたからこそ、ここまで人気になった側面もあると思います。リスクヘッジのさじ加減、難しい……。

「個人の見解です」は、もう通用しない

実名顔出しのSNSアカウント(主にTwitterですね)も非常に増えてきました。社員のSNSアカウント運用を推奨し、全社的な発信に取り組んでいる会社も少なくありません。確かに個々のフォロワー数が増えれば、組織としての発信力や影響力は増していくでしょう。

そうした発信力の獲得=社員一人ひとりの自立につながると考えている、経営者や広報担当の方もいらっしゃるかもしれません。

しかしSNSでの発信は、さまざまなリスクをはらんでいます。個人にとっても、会社にとっても、です。実名顔出しをした社員が、SNSアカウントで自由に会社や事業のことについて発信するのは、本来であればそれ相応に覚悟がいることです。

発信力をつけてそれを事業に活かしている人も、もちろん大勢いらっしゃるでしょう。しかし最近は、過去の発言を掘り返されて恣意的に切り取られたり、些細な発言の矛盾を指摘されたり、トラブルがあった際、直接のやりとりが不十分なうちに一方の立場からの情報がSNS上で拡散されてしまったりと、以前よりもマイナス面の影響が大きくなっているように感じています。

社員の個人アカウントの炎上が、所属する組織や提供サービスにも飛び火し、結果的に企業に対する不信感、ネガティブイメージを増大させてしまっているケースもたまに見かけます。

よく「発言は個人の見解です」と、プロフィール欄に書いているアカウントを見かけますが、発信を受け取る側はそんなこといちいち考慮してくれないのです。

積極的な発信をするな、という気はありませんが、「そうしたリスクもある」とあらかじめ理解しておくことが大切だと思います。

どうすれば、「個人」と「組織」を守って広報活動ができるのだろう

インターネットを通じた情報発信の歴史は非常に浅いこともあって、具体的なリスクヘッジの方法が確立しているわけではありません。これまでもこれからも、当事者である私たちが想定できないようなことが、いろいろと起きていくのだと思います。

そんな中で、どうすれば「個人」と「組織」両方をできるだけ傷付けずに、広報活動を展開していけばいいのか。正直何も答えは出ていませんし、悩みはつきませんが、まずは発信によって起こりうるであろうリスクを改めて理解するところから、もう一度、情報発信の仕方を組み立てていきたいと思っています。


 

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