2020年4月10日、PR/広報領域に特化したライター・編集者のためのコミュニティ「トナリノ広報部」が主宰するオンライントークイベントを実施しました。その模様を、一部ダイジェストでお届けします。
【イベントページ】https://tonarino.work/event/event_200410/
本や雑誌を作る、メディアで記事を執筆する。これまではそれが、編集者やライターの主な仕事でした。そして企業による宣伝・広告のコピーワークを担ってきたのは、コピーライターの方々でした。
しかし現在、それ以外の領域——とくに企業活動の中で、「ことば」を扱うプロのニーズが高まっています。
企業活動において、従来のメディアを通じた広報活動だけではなく、自分たちの在り方をきちんと言語化し表現すること、情報の基盤を構築していくことなどの重要性が増しているのです。
そのため、取材記事を執筆する、広告のコピーを書く以外にも、さまざまな種類の仕事が生まれています。
「ことば」のプロとして、編集者やライター、コピーライターは、企業にどんな価値を提供できるのでしょう?
今回は企業の仕事を多数手がけている、編集事務所とコピーライター事務所、それぞれの代表が「広報×編集・ライティングの仕事」について語り合ってみることにしました。
ゲスト
株式会社Rockaku 代表 森田哲生さん
1978年/東京都八王子市出身/多摩美術大学美術学部芸術学科卒業
編集プロダクション、制作会社などを経て2007年に独立。Rockaku事務所を創業し、2012年に法人化。ブランディングのための事業編集、サービス開発の言葉周りの設計、ブランドメッセージの開発などを中心に、企業の相談役やセミナー講師などとしても活動中。著書に『書かなきゃいけない人のためのWebコピーライティング教室』がある。
http://rockaku.jp/
「トナリノ広報部」ホスト
合同会社ほとりび 代表 大島悠
1983年生、2006年 筑波大学卒。雑誌制作会社、企業広報専門のデザイン制作会社(ディレクター職)を経て、2013年に独立。以降、フリーランスの「企業広報支援ライター」として、BtoBビジネス領域の広報ツール、各種コンテンツの編集・制作に携わる。2018年7月に法人化。
https://hotori-bi.com/
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実はかなり幅広い「広報 × 編集・ライティング」の仕事
大島:ここ数年、出版やメディア業界ではなく、企業の中で編集者的な役割を担う人のニーズが高まっているのを感じています。一部のスタートアップやベンチャー企業などでは、広報職とは別に、「インハウスエディター」と名乗る人も増えていますよね。
ただ現状ではどうしても、「社員インタビューをWebで発信してシェアする」みたいなところだけが、SNSで目立ってしまっているような気もしていて。「広報×編集・ライティングの仕事」はもっともっと幅が広いと思っているので、今日は森田さんと、そのあたりを深掘りしていきたいです。
森田:打ち合わせのときに思いましたが、思った以上に、僕たち同じような仕事してますよねー。
大島:そうなんです……! 森田さんはコピーライター、私は編集者と名乗っていますが、実はすごく、領域が重なっているところがあるんです。
今まで依頼を受けた、“ちょっと変わった”書く仕事
大島:今日ははじめに、この話からしてみたいのですが……今までに依頼された、“ちょっと変わった”仕事って、どんなものがありますか? 「記事や広告をつくる」以外のお仕事で。
森田:それね、けっこうあるんですよ。「なぜ、その依頼がうちにくる?」みたいな(笑)。
例えば、ある子ども向けプログラミング教材で文言の開発を手がけたことがありました。広告制作ではなくて、そのサービス内で使う言葉をつくる仕事。
直接のユーザーは子どもだけど、実際に使うことを決めてお金を払うのは、プログラミングの領域にリテラシーがない母親がほとんど。だから母親向けにはどんな言葉づかいで説明をするか、子ども向けにはどんな語り口にするか、サービスパッケージとWebサイト、アプリに必要な文言をそれぞれ開発したんです。
大島:なるほど。UXライティングに近いお仕事ですかね。企業として、サービスとしてどんなレベル感で、どんな手触りの言葉づかいをするかを決める、という。
森田:そうですね。こうした仕事は広告コピーとは違いますが、すごく編集的だなと思っています。大島さんは何かあります?
大島:実際にはお受けできなかったのですが、「とある部門で使うメールフォーマットの見直しを一緒にしてほしい」というご相談をいただいたことがあって。確かに、そういうところにも編集者が入る余地があるなと、いいヒントになりました。
森田:あー、それは面白そう。
(※ほか、いくつか“ちょっと変わった”仕事の例が出ましたが、すべてオープンにできないためここでは割愛します。ごめんなさい)
企業の「About Us」は、ただの「会社概要」ではない
大島:先日、森田さんがTwitterで発信されていた、いわゆる「About Us(=会社概要)」についての話もうかがいたくて。というのも、私もすごく課題だと感じている部分なんです。
森田:はい、はい。
大島:かっこいい雰囲気のブランドコピーとか、エモい感じのコンセプトメッセージとかじゃなく、「自分たちが何者か(どんな会社か)」をきちんと言語化して説明できている会社って、意外と少ない気がしていて。
森田:そう、メッセージの設計にも順番があるんですよね。例えば「水と生きる」というコピーは、サントリーという実績ある企業が使うから説得力があるのであって、誰も知らない小さな会社が急に「水と生きる」なんて言い出しても、「お前は誰だ?」という壁にぶち当たってしまうじゃないですか。
大島:そうなんですよね……。
森田:企業として思想を持っていることは大事ですけど、それを実現できる段階でないのであれば、いきなり抽象的なビジョンを語っても伝わらない。
Web設計でいえば、まずファーストビューで見られるのって「言葉(コピー)」だったりしますよね。その企業に用事がある人たちがサイトを訪れたとき、「この会社は大丈夫か?」という視点で見られる。
特にBtoB向けのサイトなんかの場合は、コンセプトの前に「会社概要」ページを閲覧する人が多いと言われてたりしますよね。だからこそ、しっかり編集すべきだと思っていて。
大島:完全に同意です。ページに基本データしか掲載がなかったり、あったとしても「お客さま第一です!」みたいな、何か言ってるようで何も言ってない(笑)コピーしか書いてなかったりとか。
取材して、経営者の方に話を聞いてはじめて「どんなことを目指して、何をやってる会社なのか」がわかる。それじゃもったいないですよね。
森田:そうそう。先日もまさにそんな仕事をやりましたよ。ある会社にコピーを一式提案したら、その社長が「よくまとめてくださいましたね」って言ってくれたんですけど、僕はちょっとかっこつけて「全部、社長がおっしゃったことですよ」とお答えしました。
大島:かっこいい!
森田:要は、その会社にはこれまで、社長の抱えている課題、事業を通して目指していること、そして今発信できていることのギャップを観測できる人がいなかっただけなんですよね。
Rockakuというのは「企業の筆記用具になる」ことを考えている会社なので、こういう仕事も、あるべき姿の一つなのかもしれないと思ってます。
どんな手順でコミュニケーションをとる?
大島:ところで森田さんは、どういう手順で仕事を進めることが多いですか?
森田:何かしら依頼をいただいたら、とりあえず一回、「腹を割って話しましょう」というところからですかね。
大島:取材のような感じですか?
森田:取材の前に、まずは雑談をします。(相性が)合う・合わないは、お互いにありますから。お金のいただき方とか、予算の規模とかのすり合わせも必要ですしね。
「じゃあやりましょう」と一段階進んだら、次に「こういう流れでこういうものをつくるべきじゃないですか?」という話をしてます。
大島:まずヒアリング(雑談)の中から、課題を見つけていく?
森田:そう。だから、例えば企業から「Webをつくりたい」と依頼がきたとしても、最初からその話は聞かないですね。そうではなく、例えば予算が500万円ありますって言われたときに、その500万円をどう使うのが効果的かを考えなきゃいけないと思っています。
大島:なるほど。
森田:他にも「ミッション・ビジョン・バリューをどうにかしたい」とか、「採用に課題がある」などというご相談をいただくことが多いですが、「課題は本当にそこなの?」という話を、まずはしていますね。
そうした雑談を経て、社内の誰にどういう話を聞く(取材する)か改めてプランを立てて、アウトプットとしてはこういうものをつくりましょう、と提案する。そのとき、あわせて課題のチェックリストをつくってます。
そして「(その課題を解決したいなら)こうなってなきゃダメですよね?」というチェック項目を一覧で作り、それをクリアしていないクリエイティブは出さないようにしていて。
大島:まさに、編集するための軸をつくる作業ですね。
森田:軸をつくらないと、結局、コピーもクリエイティブも経営者の好き嫌いの話になっちゃうので、大事だと思っています。
大島:そのために、「誰にどういう話を聞くか」の設計もすごく重要ですよね。私、駆け出しライターだった頃はそこでけっこう失敗してて……。
詳細は省きますが、「みんなの意見も踏まえて会社のビジョンをつくりたい」とオーダーをいただいて、言われるままに社員の方に何人も話を聞いたのはいいけれど、みごとにバラバラな答えが返ってきて頭を抱えたりとか。
私の問いの立て方が未熟だったのもありますが、あのときはまず、経営者の方に「あなたはどういう会社にしたいんですか?」と聞くところからはじめるべきだったと、今になって思ってます。
森田:ああー。最初にその会社の風土を把握するの、大事ですよね。その見極めは時間をかけますね。
ただし、何も一発で「正解」を出す必要はないとも思っています。何かしら言語化したときに、社内でどんなハレーションが起こるかということすら、本来ならば大きな収穫なんですよ。でも僕たちがつくっている言葉って、デバッグができないことが多いんですよね。
大島:コピーライティングも、編集・ライティングもそうですね。大半の仕事は、完成したら納品してそこでおしまい。でも実際は、形にしてみてはじめて「どういう伝わり方をしたか」が検証できるようになるから……。
森田:そうそう。今後はそうしたコミュニケーションの中に、どうにか“デバッグ”的なプロセスを組み込めないかなと思ってます。
コピーライターでも編集者でもない、新たな肩書きが必要?
大島:さて、そろそろ最後のテーマにいきましょうか。広報×編集・ライティングの領域で、どんなニーズが高まっているか——?
森田:もう、ここ数日で社会状況がどんどん変わっていますからねー。
(※イベント実施日は4/10。3日前の4/7に、東京都を含む一部の都市に緊急事態宣言が発令されました)
大島:本当にそうですね……。
森田:経済活動そのものが縮小していく中、これまで人海戦術のような力技で利益を上げてきた企業は、おそらくその手法が通用しなくなる社会がくるんじゃないかと思っています。
そうなると、営業マンはライターになる必要があるし、そうなるとその上長は編集者にならなきゃいけない。商品やサービスも、今までよりさらにコンテンツ化しなきゃいけない。だんだんそういうふうに変わっていくんじゃないかなと。
大島:同感です。編集やライティングは、これからビジネス全般に必須のスキルになっていくような気もしていて。肩書きは何でもいいし、外部から関わろうと内部で採用しようとどちらでもいいんですが、編集者・ライター的な役割の人は増えていくと思ってます。
森田:ただね、僕たちみたいな仕事って、複雑なんですよね。(業界の)外から見ると。僕がやっていることはそもそも、“コピーライター”なのか?という問いもあるし。
大島:すごいわかります。私も、“編集者”って名乗るのやめようと思ったこと何回もあります。
森田:肩書き迷子ですね、僕たち。
大島:完全に肩書き迷子です……。
「コピーライター」という職業はこれまで広告業界の中にあって、「編集者」や「ライター」は出版業界やメディアの中に閉じていたから、業界外の人、一般的な企業の人から見たら、総じて「なんだかよくわからない人たち」と思われていることは自覚しないといけないなと思ってます。
森田:今はまだ、名前がない職業なのかもしれない。認知を広げていきたいですよね。
大島:何かこう、新しいジャンルができたらうれしいです。
森田:そういう仕事をしている人たちを集めて、作戦会議しましょうか(笑)。
大島:ぜひ。やりましょう!
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◆イベント概要
開催日 | 2020年4月10日(金)19:30-21:00 |
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開催方法 | Web配信(zoom使用) |
料金 | 1,000円 |
イベントページ | https://tonarino.work/event/event_200410/ |
report by Yu Oshima
※情報はイベント開催時のものです。